短歌集(脳性小児麻痺・生きる・音楽)

康夫の短歌集(脳性小児麻痺・生きる・音楽)

脳性小児麻痺

はがね車椅子の鋼の骨の冷たきに手を触れわれのひと日始まる

気力さえ衰えゆくと思いつつ緊張ほぐす薬飲みつぐ

ガラス戸にあたりし雀の音にさえ動悸の止まぬわが病なり

馬鈴薯とトマトの合いの子の出来る世に脳性麻痺の治療かなわず

麻痺をせる我の手足の動く幅測れる医師はため息つきて

ひじを伸ばす動作もいつしか辛くなり日毎に届く物の減りゆく

立つことのついになからん我が足に血の巡り悪き冬の近づく

障害を個性だなどと悟りえず澄む秋空がいたく目に沁む

リモコンのボタンを一つ押せたとき普通の人の便利さ分かる

耳鳴りや鬱はわが身に常にあり取り立てて言う人こそ不思議

むく一日の十六時間を座りいて足の浮腫まぬ法おしえたし

痛みなく暮らせる今を惜しみつつ車椅子にてキーボード打つ

棒を持つ腕の上がれるそのうちに目線入力叶う日よ来い

生きる

車椅子のわれに従き来る蒼き峯ひとは何にて喜びとする

うら若き生命をダムに絶ちしという人を憎みぬ麻痺重きわれは

「前前向き」とよく言われしがその実は気を紛らせる術さぐり来ぬ

寂しさも不自由も生まれつきなれば心はねじれ体はゆがむ

車椅子にて国道ゆきぬわが性は激しきものを未だ追えるか

自らも「淘属汰されてりゃ」とよく思う命限りに生きいる今も

望みなく生きゆく我の余命をば夢断たれたる人に届けよ

しゅうう哀しみは封印せしと思いしが不意に涙の驟雨に遭いぬ

人々の思い出からも吾を消し深海魚となり釣られてみたい

彗星のごとく銀河を駆け巡り生命体に幸ばらまかん

衰えしこの身を奮い立たせても心沸き立つもののあらんや

灼熱の砂漠の霧を飲むというゴミムシのごと我も生きたし

幸せは スイッチひとつ押せること何よりそれを喜ぶ心

音楽

独り居てブ ブラームス聴くきょうの日をあられ降り来る縁に音して

フルートに「愛の悲しみ」吹くひとのドレスは白く小さくゆれおり

肝臓は酒に侵されいしというビルのピアノぞわれを慰む

大き手のジャズ・ベーシストが独り弾く「荒城の月」にホール静まりぬ

パソコンにて曲を奏でることを知りて楽譜をわれは学びなおしぬ

パソコンとネットで買いしスピーカーつなぎてウェスのギターに酔いぬ

歌うたう如くにサックス吹き鳴らすリハビリのため始めた彼が

ボサノバにシンクロしてゆく柄模様 画面に見つつ異次元にゆく

ジプシーのカスタネットを打ち鳴らすをシャワーを浴びる如くに聴きいる

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