康夫の短歌集(生命あるもの・窓辺の四季)

康夫の短歌集(生命あるもの・窓辺の四季)

生命あるもの

あきつ我が膝に止まれる蜻蛉の大き目に向いて温き陽の中にいる

欄干に淡く小さき網を張るクモは幾日を生きいるならん

夕べ閉じ朝花開くチューリップ生命あるものの営みを見つ

かまきり蟷螂の鎌ふり上げし亡骸がアスファルトの道をころがり行きぬ

液晶の画面に小さき蜘蛛のいてマウスポインタ追いかけてくる

麻痺をせし我が左手の静脈の上三カ所を蚊にさされたり

梢より枯葉一枚落ちてきて地面まぎわで蝶となり飛ぶ

花咲かず蕾のままに枯れてゆく百合がひっそり池の端に に立つ

樹皮は剥げサルノコシカケ身にまとう桜の木にも新芽宿せり

窓辺の四季

ひよどり鴨に実を喰い尽くされし我が庭のくれないの芽の日毎伸びゆく

花つけし竹の病葉落としつつ風は吹きすぐ梅雨明けの日に

さるすべりうすべにに百日紅の花咲き出でぬ雨の降りつぐ小庭の端に

七夕の短冊に書きしその願い叶わん日ありと思おえなくに

夕つ陽のまだ照り残る播磨灘空との境のおぼろになりゆく

沈む陽の雲にあたりて直線の影なす空を窓に見上ぐる

花びらのしたたる如く枯れゆけりコップに挿せる白曼珠沙華

虫喰いて一つ色づく柿の実にシジミ蝶群れいて野分吹き初む

黄ばみたる図鑑を麻痺の手に繰りて冬樹にとまる鳥の名探す

北窓より見ゆる景色は冬枯れてタイプに打たん言葉おもえり

な稜線を転がる如き冬の陽が萎えしわが手を温めくれぬ

とうろうきのうまで網戸におりし蟷螂は霜降る今朝か落ちていたりし

ワープロの暗き画面に小春日の空の残像がしばし映りぬ

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