康夫の短歌集(独り居・夜・年)
独り居
横臥して弁当をさじに掬い食う雨水の今日を雨しげく降る
はかどパソコンのデバッグの作業捗らぬ独り居の部屋に雷鳴とどろく
潮騒の音の入りたるレコードをひねもす聴きぬ遠き海見て
おぼろなる水平線を船ゆけり故なく人の恋おしき夕べ
柿の葉の葉脈が人の泣く顔にひととき見ゆる風凪ぎし午後
宇宙人に連れ去られるを願いたる遠き日思う空青く澄む
わが部屋の灯に寄る虫を捕え食うヤモリの来るを夜毎待ちおり
ひとは皆孤独と書きしを読み終えて冬の蒼空が我の目に沁む
パソコンのひとり遊びのゲームする窓に秋の陽暮れゆかんとす
横臥して弁当をさじに掬い食う雨水の今日を雨しげく降る
はかどパソコンのデバッグの作業捗らぬ独り居の部屋に雷鳴とどろく
潮騒の音の入りたるレコードをひねもす聴きぬ遠き海見て
おぼろなる水平線を船ゆけり故なく人の恋おしき夕べ
柿の葉の葉脈が人の泣く顔にひととき見ゆる風凪ぎし午後
宇宙人に連れ去られるを願いたる遠き日思う空青く澄む
わが部屋の灯に寄る虫を捕え食うヤモリの来るを夜毎待ちおり
ひとは皆孤独と書きしを読み終えて冬の蒼空が我の目に沁む
パソコンのひとり遊びのゲームする窓に秋の陽暮れゆかんとす
夜
寝る時間おしみて吾は液晶の画面面の中に遊びておりぬ
パソコンに向かうはイブも変わりなくホルダーの茶をストローに吸う
ヤフオクで落としたCDすぐ届き弦の響きにひたる冬の夜
更けし夜をヤモリの声に目覚めいてさっき見し夢のあとを辿りぬ
背を反らせ寝返り打てば掛け声を上げておりたり今宵も暑く
虫の音を聞きつつ独り眠られず夜光時計の数字見ており
か頭掻く機械を作り特許でも取れぬものかと思う冬の夜
寝返りで谷間の道を転がれる夢より醒めし施設のベッド
ぬばたまの間に漂う影たちよ今宵は吾に魔力与えよ
年
気動車の汽笛のとおくより聞いて二十八度めの夏はきにけり
ももひき股引を穿くにもこだわりなくなりて我が若き日も過ぎてゆくべし
脳性マヒは老化のはやしと聞かされぬ三十前にてしびるる手足
生徒らの騒ぐ夜汽車に乗り合いて窓に映れるわが顔老けぬ
こだわ たわ二十歳にてタイプライターを打ちしより拘り多き過ぎゆき思う
着実に機能低下は進みいて心の棘がわが身をも刺す
行き場なく鏡の中にいる吾を老いが深々食いついており
キロ悪夢だと思いつつ来し半世紀 三十三砥のマヒせしこの身に
彼の世にも身を置く場所はなからんかかせ枷つけしまま五十路を辿る

