康夫の短歌集(大阪行・旅)
大阪行
わが乗れる車椅子をば担ぎくるる阿波座の駅員は軽しと言いて
便所にて寝ていし人もあると言う友とゲーム機にもたれ微睡むまどろ
藤色に明けゆく港に近づきて錨を下ろす船の間を行く
地下鉄の長き階段をわが車椅子担ぎてくれぬ名も知らぬ生徒ら
洋式の便所をもとめ入りたる病院は脳外科と友は笑いぬ
わが口にオムレツをふくませくるる友に食堂の人は小皿を出してくれたり
天井に何かしみたる跡のあるホテルの部屋に友と寝につく
段ボールの上に座れる若者の躰を我にやりたしと言う
テレクラと貸部屋のチラシの風に飛ぶ大阪の街を友と歩みぬ
旅
車椅子にて初めて乗りし電車より白木蓮の咲ける庭見ゆ
きょうちくとう秋雨に夾竹桃の濡れて咲く道たどり来てキャンプに入りぬ
乗客にキャンプファイヤの見ゆるらん国分の駅を特急の過ぐ
車椅子を押して貰いて我が点けしキャンプファイヤは今盛りなり
雪をかむりし大山が我が乗る特急に右に左に見え隠れせり
知り合いて三日目となりし友の手を握り返して宿を離るる
さんべ帰らんとマイクロバスを待ちている三瓶の山に氷雨降り来る
砂浜に思い切り小石を放りたし蒲生田岬に日ののぼり来る
三人並び挙手をしている整備士に機長も窓をあけて応えぬ
坂出駅の発車のベルの聞こえ来る南山先生の部屋訪ねれば
ポスターカラーに描きしごとく空澄めりつづら折りなす剣山の道
階上を電車が走り抜けるカフェわが車椅子も歓迎されし
竹田の食パンを売る店もありもみじ燃え立つ叡山鉄道

