康夫の短歌集(大和の国・瀬戸大橋)
大和の国
タイプにて脅迫状を打つ者ありわれは短歌をマヒの手に打つ
墜落機に乗りいしは誰か泣き叫ぶ若き女性をテレビは写しぬ
黒人を鞭に追い行く警官を衛星中継のニュースは伝えぬ
わが裡にも潜む宮崎勤あり語調荒げしテレビを見つつ
平成元年八月、東京・埼玉幼女連続誘拐殺人事件で宮崎崎勤
十五年このぬるま湯に漬かりいて自立をいうは悪法のみか
平成十八年十月、障害者自立支援法が全面施行される。
ひと殺すために生きたという者のししむらのみを奪い取りたし
平成二十年六月、秋葉原無差別殺傷事件の報道に接して
大臣へ 給付金など要らぬから看護介護の報酬上げよ
みまか煌煌と明かり瞬くマンションに独り身罷る人こそ哀し
リストラで職失いしひと来たれ身障施設はいつも求人
硬化せし脳を持ちたる人間が指揮する組織 終焉近し
意義のある生き方とは何人のため力尽くせど地球は傷む
片方に忍耐強いる和を保ち大和の国の歴史は続く
自らの弱点を知ること拒む扱い難き今の若者
障害者差別禁止法いまだに批准できぬは偽の和のせい
幾人もひと死なしめて滅ばざる身内に甘き日本の組織
笑み浮かべ安全を説く解説者 危険な数値をついには言わず
まやかしに充ちし仮面を剥ぎ取るはかく数多なる贄むさぼるかあまたにえ
瀬戸大橋
朝の陽に鈍く光れる瀬戸大橋の主塔仰ぎて与島にむかう
前のめりに歩める黒き盲導犬と並びて渡る瀬戸の大橋
瀬戸大橋ウォークに幼な子を背負いハムの交信せる人も行く
瀬戸大橋の風抜き格子より七十メートル下の水面の緑色深し
空を刺す如くに海にそびえ立つ瀬戸大橋の橋脚を見ぬ

